大好き君
電車に乗るときは、いつも隅っこの席だ。
全てを見渡せる。
しかし、今日の私は落ち着かない。
空いている席が、優先席だけだった。もちろん、お年寄りや困っている人には席を譲るつもりだ。
後ろめたさはあったが、進行方向右側後部の優先席に座った。一時間の長い旅の始まりだ。

電車が動きはじめたころ、私の左側の壁に蛾がいるのがわかった。ほぼ真っ白い。なにもせず、じっとしている。寝てるのか?死んでいるのか?

蛾の大きさは小さくて一センチぐらいだった。

隣では、おばさん風の社会人が、目一杯足を伸ばし「あっー」と嗄れ声を出していた。仕事で疲れているのか?
しばらくすると、また声を出した。

いくつ駅を過ぎただろうか。
いつまにか、蛾はいなくなった。
消えてしまったのである。
左側のすぐ横の壁にはいない。
かといって、飛んだようにも、思えない。

三百六十度見渡したがいない。

よかった。これで、少し寝れる。
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