救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~
あの時も必死だった。

メディカルカーに乗り込みバイタルサインをチェックする。

病院は目の前なので、やれることはそれくらいだ。

病院に着いたら待ちかねていた救急医とERスタッフに簡単な状況を説明する。

ここは救急医のテリトリー。

外科医の自分が好き勝手にやれる場所ではない。

しかし、ここセントヒルズホスピタルのERには、患者が拒否した場合は別だが゛自分が拾ってきた(言葉は悪いが)患者は、必ず主治医もしくは担当医としてかかわり最後まで責任を持つ゛という明確なルールがあった。

これは救急医に予定外の負担を強いるのを避けるだけではなく、各科の医師が責任をもって患者に向き合うことを求めているためだ。

もちろん、あやめもそのつもりでイケメンエリート商社マン(仮)もとい聖川光治をここに運んできた。

私服からユニフォームのスクラブに着替えてERで待つ担当患者(仮)に向き合う。

「まずは点滴で血管のボリュームを増やさないと、ってルート確保済んでるし、ありがとう!」

「・・・それにエコーと血液検査、X線検査オーダーに造影CT、あっ、アレルギーの確認と造影検査の同意書はどうしようか・・・。スマホと名刺から家族の連絡先を探して、並行しながら手術の準備と各部門への連絡っと!」

医療従事者の独り言はもはやデフォルトだ。

誰も突っ込まないし、何ならみんなそれぞれに独り言を言っているくらいだ。

「あやめ先生、12誘導やっちゃってもいいですか?」

「検査電話しときましたよ」

敢えて言わなくてもどんどん準備が進んでいく。

ここに来るまで、あやめはあちこちの個人病院を回り、全ての業務を自分でやらなければならない緊迫した場面を何度も経験したことがあった。

潤沢な資機材とスタッフ。

美しくて最新の施設設備。

なんと言っても素晴らしいのは各部門から得られるスムーズな協力体制だ。

あ、うんの呼吸

正にそれがここにはあった。

なあなあ、ではなく、確かな判断と確認に基づいた連携プレー。

゛すべては患者様と仲間のために゛

゛one for all, all for one゛

そんな日本ラグビーの素晴らしいキャッチフレーズがふさわしいこの病院は、世界的にみても珍しい理想郷と言えた。
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