救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~
「聖川さん、おはようございます。退院する日が快晴で良かったですね」

快晴の今日は、都心を見下ろす病室の窓から空に伸びる竜神雲をまたも見ることができた。

あやめが光治に初めて会った会ったあの日もそうだった。

゛もしかしたらこの人には竜神様のご加護があるのかもしれないな゛

あやめはぼんやりとそんなことを考えつつも朝のカルテチェックを終えて、いつものように担当患者の部屋を回診していた。

ここは外科病院の特別室。

7日前に、急性虫垂炎から腸管穿孔を起こし緊急手術となった、あの聖川光治の退院日だ。

ベッドの上に彼の姿はない。

ネクタイを色気たっぷりに結びながらこちらに視線を向ける光治。

入院中にすっかり馴染みとなったシルクの寝衣姿は封印され、出会った日と同じようなブランドもののダークグレーのスーツに包まれた姿は気品に溢れていた。

もうどこをどう見ても患者には見えない。

できる男、ベリーヒルズビレッジを統べるイケメン御曹司専務のリベンジ開始だ。

「お世話になりました。先生のバディの柚木崎先生にもよろしくお伝えください」

柚木崎とはあやめのバディの外科医。

あやめが休みの時にフォローに入ってくれる30代の男性医師だ。

消化器外科が専門でかなり腕が立つ。

今回も3日前のあやめの週休消化の際に、光治の創処置などを担当してくれた。

「はい。伝えておきますね」

患者を入院前の状態、もしくはそれ以上の状態に戻して退院を迎える。

それは医師が最も嬉しいと感じる瞬間の一つだ。

「くれぐれも無理をなさらないように。今回はこの程度で済みましたが、今後も同じような生活を続けていたら次は命を落としますよ?」

あやめは、入院中に確認した光治のこれまでの生活習慣を思い出してクスクスと笑った。

「先生が笑ってくれるなんて珍しいですね?先生が僕の側にいてくれて、そうやって優しく笑って下さるのならば、いくらでも改善すると約束しますよ?」

甘さを含んだ淀みない言葉で、不意打ちのストライクボールを投げ込んでくるイケメン・・・あざとい。

゛この人、こんなお愛想も言うんだ・・・゛

あやめは意外に思ったが

「それは美しい彼女さんにでもお願いしてみてくださいね。私のような冷たい女医から言われるよりもきっと効果は抜群ですよ?」

型通りに光治の言葉をスルーすることにした。

「そんな気の利いた彼女は僕にはいません。だけど、先生が僕のプライベートに関心を持ってくれていたのなら嬉しい限りです」

< 21 / 101 >

この作品をシェア

pagetop