救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~
「と、とにかく、今すぐやめてくださればセクハラには問いません。・・・回診の途中なんです。離れてくださいませんか?」

冷静に、かつ、淡々と。

こんなときは相手を刺激しないのが一番だ。

あやめは毅然とした態度を貫き通した。

「わかりました」

案外あっさりと光治は了承してくれた。

゛よかった、大事にならずに済みそう゛

と、あやめが気を抜いた、一瞬の出来事だった。

ゼロ距離に近い光治の顔が突然あやめの方を向き、彼の柔らかい唇が音を立ててあやめの頬をなぶって行った。

「・・・!」

頬を抑え、目を見開くあやめに

「ヨーロッパ式の感謝の表現です」

と、光治は悪びれもせずに言った。

「僕だってお忙しい先生の手をこれ以上煩わせるのは本意ではありません。次は一週間後ですね?その時にまたお会いすることを楽しみに待っています。それでは」

ニコリと笑った光治はパソコンケースを手に取り、軽くお辞儀をすると、呆然とその場に佇むあやめをちらりと見て部屋を出ていった。

< 23 / 101 >

この作品をシェア

pagetop