救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~

恋するただの男

「光治様、体調はもうよろしいのですか?何も退院当日にまで出社されなくても・・・」

光治が幼い頃から、光治の父・博志の側近として仕えてきた田中が、ペットボトルのミネラルウォーターを差し出しながら小さく言った。

本来ならコーヒーを出すのだが、手術をした光治を思いやってのはからいだ。

光治はあやめと別れたあと、セントヒルズホスピタルからニューベリーヒルズオフィスビルに向かった。

ニューベリーヒルズはベリーヒルズビレッジ内にあるオフィスビルで、7~48階はオフィスゾーンになっている。

ここ48階はベリーヒルズビレッジ全体を統括する管理部門が入るフロア。

幹部しか入ることのできない機密性の高いフロアのため出入りは制限されている。

「体調は万全だよ。何せ評判の名医に管理されていたんだから」

嬉しそうで自慢気にも見える表情の光治に幼い頃の面影を見て、

「光治様がそこまでお誉めになるとは余程優秀な方なのでしょうね?」

と、田中は微笑んだ。

「ああ、彼女は実に優秀で優しくて器用で、その上・・・可愛らしい」

「あ、あの・・・彼女、とは・・・?」

「ああ、言ってなかったかな?僕の主治医は女性だったんだよ」

困難な手術を任せたのが゛女医゛だったことについては何も知らさせていなかった田中だったが、それ以上に、光治が女性を誉めているという事実に驚きを隠せない。

普段は光治専属の執事である田中だったが、光治の入院中は、光治のこなすはずだった業務を請け負う副社長付きの秘書として、仕事をこなさなければならず、泣く泣く身の回りのお世話は他の執事にお任せ状態だったのである。

「光治様のお眼鏡に叶った方なら、私にも是非ご紹介頂きたいものです。美しくて聡明な方に違いありません」

田中の言葉に、満更でもなさそうに光治が振り返る。

「見るかい?これ隠し撮りしたんだ」

光治はスマホをフリックすると、ある画像を表示させた。

そこには、紫のスクラブの上にドクターズコートを羽織って患者と談笑する小柄で華奢な女性が写っていた。

焦げ茶色の髪、ウエーブがかかった肩甲骨まで伸びる髪を一つに束ねまとめている。

色白、大きな瞳、整った顔は、確かに西洋ドールのように可愛いが・・・どう見ても高校生にしか見えなかった。

しかも、隠し撮りなんて・・・バレたらどうするのだろうか、と田中は別の意味で光治の突飛な行動の行く末を心配をしていた。
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