救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~
゛来週の診察が終われば関わることはない゛

そんな浅はかな考えを持っていたのは誰だ?。

あやめは昨日までの自分を罵りたい、と本気で思っていた。

何気ない1日であるはずの火曜の朝七時。

お気に入りの抹茶専門茶処゛まつや゛で過ごすいつもの時間。

座りなれた特等席に、美味しい朝食セット。

・・・それが今日は違和感ありまくりなのは、この男のせいだろう。

あやめは向かい合わせの席に腰かけて魅惑的に微笑む男性を見て言葉を失っていた。

「ここで何をされているんですか?」

「何をって、食事を注文したところです」

「席なら他にも空いているでしょう?それに向かい合わせの席はソーシャルディスタンスが保てません」

「それならあやめさんの隣に座っても?」

言い終わらないそばから光治はあやめの隣に移動してきた。

何を言っても納得する答えは得られそうにない。

「それなら私が移動します」

あやめは、自分用に用意されていたお通しのお茶の湯呑みとバッグを掴み、勢いよく立ち上がった。

「もしかして、あやめ先生は僕と相席するのも抵抗があるくらい、僕のことを意識して下さっているのでしょうか?」

「そんなわけありません。どこまで自意識過剰なんですか!」

「それならお座り下さい。注目を浴びていますよ」

光治の目線を追うと、確かに数人の常連客が珍しそうにこちらを見ていた。

あやめは渋々椅子に腰かけた。

「゛次の診察で会えることを楽しみにしています゛とあなたはおっしゃいましたよね?こんな不意打ちは卑怯では?」

「゛患者としては゛という主語が抜けていましたね。すみません。一個人としては、何も言及していないのですから僕の行動は自由なはずです」

さすがベリーヒルズを統べる専務様、言葉巧みでいらっしゃる。

はあ、とあやめはため息をつき、離れたところから興味津々に二人を見ているつゆりんに声をかけた。

「朝食セットを一つ」

「同じものを」

やって来たつゆりんに、すかさず注文をいれる光治は抜かりない。

「朝食セット二つですね。承知しました」

つゆりんは、持っているタブレットを操作し終えると、ちらりと光治をみて言った。

「失礼ですが、もしかしてこの間あやめ先生が病院に運んだあの男性ですか?あっ、こんな質問気に触ったならごめんなさい」

「いえ、大丈夫ですよ。その通り、あの時の急患は僕です。この通り、あやめ先生にしっかり治してもらいました」

つゆりんの不躾な質問にも怒らない。

光治は案外、気さくな男性のようだ。

しかし、あやめは二人の会話を無視して黙々と食事を続ける。

仕事柄、早食いは得意だ。

どのくらい早いかというと・・・。

「ご馳走さま。お代置いとくね」

5分、それだけあればこのくらいの朝食、あっという間に平らげる位は朝飯前、って朝飯後か?

「ちょっと、あやめ先生、早すぎ」

あまりの早食いに、さすがの光治も驚いているようで目を見開いたまま固まっていた。

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