救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~
「おや、聖川専務じゃないか。こんな朝早くから君には不釣り合いなこの場所で何をしている」

せっかくの゛あやめ情報収集゛の機会に割り込んできたのは、この店のオーナー兼社長の粟花落創生(つるりそうせい)だった。

「あやめ先生に用があったみたいよ」

「あやめ先生?ああ、光治、お前、この前倒れてあやめっちに助けてもらったらしいな。さすがは俺らのあやめっちだ。゛急患ホイホイ゛の異名を取るだけある」

ガハハと笑うこの男、実は日本茶の茶畑と製造工場を持っていて、かつ師範の称号を持つ茶道家元だ。

そんなことより゛俺らのあやめっち゛という言葉は冗談でも聞き捨てならない。

「゛俺らのあやめっち゛とはどういう意味かな?」

「つっこむところはそこかよ。・・・いや、こいつ、俺の嫁でなつめっていうんだけど、あやめっちに赤ん坊共々命を救ってもらってさ、それからずっと家族ぐるみの付き合いなんだ」

゛ただひたすらにうらやましい・・・゛

光治と同じように命を救われたなつめは、あやめと親しく家族ぐるみで付き合いをさせてもらっているのに、なぜ光治は朝食のわずかなひとときすら共有してもらえないのか・・・。

光治が不満気に創生を見つめていると

「もしかして、聖川さん、あやめ先生に惚れちゃいました?」

と、なつめがストレートに尋ねてきた。

さすがはあやめ先生の友達である、目敏い。

「ええ、その通り、惚れちゃってます」

「まじか?堅物王子の聖川専務を落としたのは、あの童顔女医゛あやめっち゛なのか!とんだダークホースが現れたな」

悔しそうな顔をする創生は、おそらく光治のパートナーになる人物で賭けでもしてたのだろう。

モールの若旦那達がやりそうなことだ。

「なつめさん、あやめさんは毎日ここに来るのですか?」

「ええ、休みの日以外は欠かさず来てくれてますよ。うちの天使に会いに」

なつめは、茶処の一角に設置してある保育コーナーで保育士と遊ぶ一歳児を指差して言った。

「あの子は結人(ゆいと)と言います。あやめさんに命名してもらったんですよ」

「素敵な名前ですね。センスがいい」

「あの保育スペースもあやめ先生の発案なんです。おかげで仕事しながらも安心して子育てできます。それに、あやめ先生は、毎朝さりげなく結人の体調までチェックしてくれて頼りになるんです」

権力や名声を笠に着ることなく、ただひたすらに命と向き合う。

そんなあやめの行動を知り、光治は益々執着を深めるのだった。

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