救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~

ただの男のイケオジ参謀

「えっ?集団健診、ですか?」

定例の手術を終えて、医局に戻っていたあやめが外科部長の坂上から声をかけられたのは、午後を少し過ぎた頃だった。

「そうだ、毎年当院の医師が交代でベリーヒルズビレッジ内のオフィス、テナント、レジデンスの職員を対象に集団健診を行っている。今年は外科も当番となっているんだが、その時期は学会や出張、夏休みと重なっているだろ?人手が足りないんだ。杜若は今週、夏休みや学会発表ではなかったな?」

「はい、大丈夫です」

「執刀するオペもなかったはずだよな?」

「助手として入るものが何件か・・」

「大丈夫だ、そっちは他に振り分ける」

「・・・」

断るという選択肢はなさそうだ。

助手で手術に入るといっても、かなりレアな症例もあり勉強になるのだが、働く職員の健康を守ることも大切な医師の役割だ。

しかも、数千人規模の健診とか、滅多に経験できるものではない。

この経験が今後に活きることもあるだろう。

「いつですか?」

「明日から3日間だ」

「えっ?ずいぶん急ですね」

「実は、胸部外科の竹中っているだろう?アイツが担当するはずだったんだが、急遽、九州への出張が入って健診には行けなくなったんだ。すまない」

そういえば竹中先生、さっき手術中に、off―JTメディカルコースのインスラクターが足りなくなって急遽、九州に飛ぶことになったとぼやいていた気がする。

「それならば仕方ありませんね。私でよければ頑張ります」

「頼んだぞ。だか、喜べ。健診が終わったら、ベリーヒルズビレッジの大物たちとの暑気払いの会が行われる。お前の好きな抹茶も振る舞われるぞ。健診担当者は全員強制参加だ。人脈を作るチャンスだと思って参加しろ」

「そんな、人脈なんて・・・」

「いや、お前の夢の実現のためには大事なことだぞ。何が助けになるかわからないんだ。一期一会を大切にしておけ」

そう言って笑った外科部長は、あやめの肩をポンと叩いて医局を出ていった。
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