救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~
「健診の場所は、セントヒルズホスピタル三階にある検診(健診)センター。9時から17時まで。暑気払い会は金曜日の19時からモールの屋上にて。浴衣着用・・・?」

あやめは医療秘書が持ってきた案内文に目を通しながら、さすがはベリーヒルズビレッジの福利厚生、内容が整っているな、と他人事のように思っていた。

このベリーヒルズビレッジ内、すべての施設の職員を対象とした健診。

健診場所はセントヒルズ自慢の日帰り健診センターを使って、一度に複数人の健診を同時に実施できる。

健診の最後に行われる医師による診察。

小さな町の職場健診などでは、診察という枠組み自体が適当に扱われているところもあると聞くが、ここセントベリーではそんなことはあり得ないどころが許されないレベルにある。

一日の健診担当の医師は今回も10名ほど配置されている。

手当てもついて割がいいと人気が出そうなものであるが、大物相手にプレッシャーも大きくやりたがらない医師も多いそうだ。

なぜなら、ベリーヒルズで働く面々は日本を代表するの有識者、富裕層、優秀なビジネスマンが顔を連ねている。

確定診断は求められていないのだが、異常を見落としてしまっては取り返しがつかない。

場合によっては、医師としてのステイタスを脅かすことにもなりかねないのだ。

しかし、出世欲のないあやめにはそんなことは全く関係はない。

「誠心誠意つとめるだけ」

たかが健診、されど健診。

小さな見逃し1つが手遅れになることもあるのだ。

追い詰めないように、でも、多少の危機感を持ったまま、受診者に接しよう。

そう、心に誓って、あやめは午後の業務に戻るのであった。

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