救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~
「まずは、光治様のお命をお救い頂き、心より感謝申し上げます」

「いえ私は医師として当然のことをしたまでです」

言い慣れた型通りの台詞が沈黙を破る。

「いえ、その当然のことがお出来にならない方は大勢いらっしゃる。あやめ様から光治様にお声かけ頂かなかったら、今頃ご無理が祟って手遅れになったやもしれません。本当にありがとうございました」

直立不動でお辞儀をする田中に、あやめも慌てて立ち上がった。

「そんな、大袈裟です」

「いえ、そんなことはございません。光治様はああ見えてとても我慢強い上に堅物なのですよ。旧財閥家の跡取りとして世間からのプレッシャーも大きく、しかも、少々複雑なご家庭でお育ちになられた。女性に関しては゛目の敵゛とばかりに敬遠されていらっしゃたのです。その気持ちを覆させただけでもあやめ様の功績は甚大なのでございます。そんな方とお近づきになれたらどんなにいいか・・・」

目をキラキラさせて語る田中の言葉に、あやめは田中が本当に告げたいことは何なのかなんとなくわかってしまった。

自称゛ただの恋する男゛の側近として役に立ちたいという純粋な親心なのだろう。

「とは言われましても、私と聖川さんでは立場も身分も違いすぎます。同じ土俵で相撲をとるには体格も流派も違い過ぎては何かと酷でしょう?お気持ちは大変ありがたいのですが、医師として当然のことに、お礼も特別な感情も受け取るわけにはいかないのです。ご理解下さい」

あやめの真摯な言葉にも、田中は一切怯む様子は見せない。

さすがは光治の側近、恋のキューピッド?だ。

「ええ、大抵の方は聖川の力を前にして、あやめ様と同じような反応をなさいます。しかし、とにかく今は、聖川家の次期当主としてではなく、光治様個人を゛一人の人間゛として見てはもらえないでしょうか?そうした上でも光治様を一人の男として見られない、とおっしゃるのであればもちろんお友だちのままで構いません。彼が初めて信用した女性です。お互いを知り合う前に縁を切ってしまいたくはないのです。あやめ様なら田中のこの気持ちおわかりになられますよね?」

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