救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~
゛なんだか、自分ではない女性との仲を私が引き裂いているかのような口振りだけど、これって私のことで間違いないのよね?

田中の悲痛な叫びに、あやめは一人心の中で狼狽えていた。

「あやめ様にご理解頂けないのであれば、よもや光治様に顔向けできません。この田中、死んでお詫びを・・・」

窓際に吸い込まれるように進んでいく田中を

「ちょ、ちょっと、田中さん大袈裟過ぎますよ。たかが私との縁が切れるくらいで」

と、あやめは慌てて引き留めた。

「たかがではございません!あやめ様は聖川の御仁の恐ろしさをわかっておられないのです。彼らは大切な何かを失うことを極端に嫌うのです」

田中の真剣な面持ちに、あやめも何だか不安が募ってきた。

「そんなに?」

「そんなに、でございます」

耳元で囁く田中の言葉に、あやめの顔から血の気が引いていく。

゛そんな人たち、私の手に負えるはずはないじゃない・・・゛

と、項垂れた後に、なんとなくムカついてきたあやめは

「もしかして、聖川さんに頼まれてこんなことしてるんですか?」

と、田中を責め気味に質問した。

「まさか!シャイな光治様が私のようにずる賢くたち振る舞うよう指示できるはずがありません。今もグジグジ悩んでおられるに決まっています」

しかし、返ってきた答えに、何故だか光治が可哀想になってくる。

゛本当は情けないだけの聖川光治に、自分は過剰に反応しすぎていたのではないか゛

と、まで思うようになってきていた。

・・・絆され過ぎである。

゛田中に、自分の執事に・・・ここまで想われて(ディスられて)なんだか可哀想・・・

同情すら湧いてきたあやめはもはや田中のマインドコントロールに完全にはまりつつあった。

゛考えてみれば人は生まれながらに平等なはずではないか゛

゛御曹司だから、旧家族だから、専務だから、光治だから?って差別されるいわれはないわよね゛

「お友達としてなら・・・」

つい、憐憫の情からそんな言葉が口をついてしまった。

罠とも知らずに・・・。

「本当でございますか?お友達として光治様の人となりを見ていただいた後に、光治様を男として、こん、やく、しゃ・・・として見極めてくださるということでよろしいのですね?」

何か、今、不穏な単語が一つ混ざっていたような気がしたのは気のせいか?

「えっと、そこまでは・・・」

「あやめ様はお医者様なのに、人を身分や外見で判断なさるのですか?そうではありませんよね?」

畳み込まれるように話されて

「い、いえ、そんなことはありません。おっしゃる通りでございます」

「ですよね!これで言質は頂きました。あー、本当に安心致しました。早速、私は循環器センターに向かうことに致します。あやめ先生、長いことお時間を取らせて申し訳ありませんでした。それでは後程」

と、あっさり立ち去った田中。

「えっ、ちょっと・・・」

あやめには別れの挨拶を口にする暇すらも与えなかった。

あまりのすばやい逃亡劇に、あやめは火曜の朝の自分の行動を反省した。

食い逃げ(言い逃げ)された者の立場はない。

゛今日の教訓゛はこれで決まりだった。

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