救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~
「またまだ気力は回復していませんね。前にもお伝えしましたが今後しばらくは残業や休日出勤といった過酷な労働は避けてくださいね。しかし、日常生活にはほとんど支障はありません。適度にリフレッシュして、気力と体力を取り戻してください」

診察終了とばかりに、あやめは光治に手を貸し、診察台から起き上がらせた。

「今日の暑気払いには参加してもよろしいでしょうか?」

すっかり忘れていたが、そういえばこの後そんな行事にお呼ばれしていたな、とあやめも思い出した。

「あやめ先生も参加されるのですよね?」

上目遣いで見つめてくる大型犬があざとい。

「ええ、健診を担当した医師は強制参加らしいので参加しますよ。聖川さんは主催者側なので参加しないわけにはいかないのでしょう?お酒を飲まないと約束できるのならば参加を許可します」

「本当ですか?もちろんお酒は飲みません。今日は抹茶の振る舞いと花火の打ち上げがあるんですよ。あやめ先生は浴衣のご準備はお済みですか?」

「いえ、この後モールに行って購入するつもりです」

あやめの言葉に、光治はホッとしたように微笑んだ。

「それなら良かった。田中にあやめ先生に似合う浴衣を準備させたんです。後で届けさせますね」

「執事の田中さん、ですか?」

「ええ、僕らが友達になった記念に是非とも浴衣をプレゼントしろと言ってくれました。断られたら命を絶つ覚悟とも」

お礼はいらない、と言いかけたあやめに光治は先制パンチをお見舞いしてきた。

執事が執事なら、主も主である。

情に訴えかけてきて、言質を逆手に取るとは田中の入れ知恵に違いない。

「あ、ありがとうございます。ですが、まだ勤務時間中です。健診と関係のないお話はご遠慮願います」

頬をほんのり染めて唇を尖らせるあやめの姿に、光治の目元もほんのりと染まった。

「プライベートを充実させろとあやめ先生がおっしゃったからですよ。他意はありません」

゛他意がありまくりではないですか!゛

そんな心の声は今はとどめておくことにする。

「診察は終わりです。家族歴や既往歴、生活習慣については入院中にお聞きしたことで追加はありませんか?」

「はい。残業と休日勤務をやめてプライベートを充実することにした以外は何も追加はありません」

診察台から下りて立ち上がった長身の光治があやめを見下す形になる。

「今日はあやめ先生の健診に参加することができて良かったです。この後の先生の浴衣姿、楽しみにしていますね」

さりげなく近づいて、あやめの耳元で囁いた光治から以前に漂ってきたいい男の香りが鼻先をかすめた。

゛フェロモン、これってフェロモンだろ・・゛

最後の最後に男の色気を振り撒いて去って行った堅物?シャイ(ニング)プリンス。

あやめはフェロモンらしきものにあてられ苦笑しながらも、この後の浴衣と抹茶、花火のコラボレーションに期待を大きくしている自分に気付かないわけにはいかなかった。
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