救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~
「お待たせしました」

あやめの゛更衣室゛として準備されていたのはスイートルームだった。

無駄に広い更衣用の空間からあやめが顔を出すと、既に浴衣に着替えていた光治と田中があやめに視線を向けた。

「・・・(か、カッコいい)」

「・・・(き、綺麗だ)」 

「・・・(想定通りです)」

ダークグレーの浴衣に濃紺の帯姿の光治は、スーツの時とも検査着?の時とも違った色気に満ちいい男フェロモンをそこら中に垂れ流す勢いだ。

対するあやめも、小柄な身体に反してボリュームのある胸と綺麗に引き締まった腰がスタイルのよさを強調。

色白の肌と綺麗な項も相まってただならぬ女の色気を醸し出していた。

「実にお美しくてお似合いのお二人ですね。並んで歩くお姿を拝見できるなんて田中も嬉しゅうございます。しかしお時間は差し迫っております。参りましょう」

田中の言葉に時計を見ると暑気払い会の開始時間まで残り15分となっている。

急がなければ遅刻は免れない。

「行きましょう。あやめさん」

この時を境に、光治の゛あやめ先生゛呼びが゛あやめさん゛に変わった。

「僕らは一個人の付き合いを始めました。あやめさんも、今後は僕のことは光治とお呼びください」

チラリと田中を見ると、あやめには有無を言わせない、とばかりに力強く頷いている。

「光治さん、急ぎましょう」

あやめは反論することなくさっさと名前呼びを承諾した。

光治は嬉しそうに目を輝かせているが、あやめにとっては゛言い争う時間がもったいない゛というそれだけの理由にすぎなかった。

゛遅刻はダメ絶対゛

真面目なあやめは、自分限定ではあるがプライベートの時間においても几帳さを発揮する。

強引に光治の腕を引くあやめと、嬉しそうに追従する光治。

その愛らしい様子を見て、田中は一人微笑んでいた。

もちろんこれらの流れが、あやめの性格を考慮した上での、田中に計算しつくされた成り行きであるとは光治もあやめも知る由もなかった。
< 47 / 101 >

この作品をシェア

pagetop