救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~
ショッピングモールの屋上。

そこには本格的な日本庭園が広がり、広大な敷地の一角には茶室も設けられ、実に雅な空間を作り上げていた。

なんとか時間通りに゛暑気払い会゛の受け付けに到着した三人は、何かと注目を浴びていた。

゛ベリーヒルズの堅物王子゛こと聖川専務が、小柄な女性に腕を引かれながら微笑みまで浮かべてこのようなパーティー会場に現れたのはちょっとした事件であった。

ここベリーヒルズビレッジは、在籍する多くの企業や団体、テナントのメンバーが集まって一つの福利厚生団体のようなものを作っている。

お互いの情報や意見交換、仕事以外の交流を通してお互いに協力・刺激し合うことで成長を促す。

この゛暑気払い会゛も、そんな活動の一環で、各施設や企業の代表が毎年交代でホスト役を担い交流を深めている。

「今年は、抹茶専門茶処゛まつや゛のオーナーである粟花落創生さんとなつめさん夫妻がホスト役を担っています。あやめさんも彼らがいるとなれば、この会に参加するモチベーションが上がるのではないですか?」

「つゆりん夫妻が・・・?嬉しい」

光治の言葉に、あやめが瞳を輝かせた時だった。

「お?あやめっちと聖川専務、それに執事の田中さんじゃないか。仲良くお揃いとは案外うまくやっているのかな?」

と、前方から純和風イケメン家元、創生が声をかけてきた。

「創生さん、つゆりん、ホストだなんて凄いわね。何かお手伝いすることはない?」

知らない人ばかりでは楽しめないだろうなと、内心危惧していたあやめだったのだが、思いもよらず親しい友人がホストであることがわかり喜んで手伝いを申し出た。

その自然な笑顔が清楚な容姿と相まってあやめの美しさを引き立てる。

ただでさえ他者を寄せ付けない堅物王子の聖川専務が同伴してきた稀有な女性だ。

周囲の関心を集めないはずはなかった。

「いやいや、そんなことをさせたら聖川専務と敏腕執事に後で何を言われるかわかったもんじゃない。あやめっちは純粋に暑気払い会を楽しんでくれ」

「そうよ。この間はせっかくの朝食セットが無駄になっちゃったものね。それよりも深刻なのはあやめ先生が3日も顔を出さないから結人が寂しがっているの」

「ごめん。わざとではないの。急に集団健診の担当が回ってきて。病棟の朝の回診を前倒しなくちゃならなくなってお店に顔を出せなかったのよ。私も寂しくて結人くんとまつやロスに陥ってたわ」

親しげに会話を楽しむ美女二人。

そんな二人を優しく見守る茶道家元と聖川次期当主のイケメンツートップ。

周囲はヒソヒソと、彼らの関係性を推測して互いに牽制しあっては小柄な浴衣美人の正体について何らか情報を得ようと画策していた。

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