救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~
「ご忠告申し上げますが、明らかな証拠や確実なエビデンスがない事項をベラベラとお話になることはご自身の身を滅ぼす結果になりかねません。特に他人を傷つけるようなことを安易に口にしては名誉毀損で訴えられますよ」

「な、何よ。たかがホステスの分際で私に説教をする気なの?何様のつもり?」

フフ、っと思わずあやめは笑ってしまった。

「そう、その思い込みについてもです。私がいつ貴女にホステスをしていると言いましたか?貴女は私のことも光治さんのことも何も知らない。それなのに目で見て感じたことだけ、誰かに聞いたことや噂話だけを頼りに、さも正論だと言いたげに知った風な口をきく。その事が愚かだと私は言いたいのです」

怒りに言葉を失った女性は、両手の拳を握ってプルプル震えている。

「それに家柄や育った環境は自分で選べるものではありません。それを生まれつきに持っているからといって自分の手柄として考えるのは馬や鹿のすることです」

「な、なんですって?」

ついに彼女は大声をあげた。

宥めるのは大変そうだが、敢えて煽ったのだから甘受するしかない。

「私の知る光治さんは、優しくて不器用で可愛げのあるただの恋する男です。田中さんだって、そんな男を見守るただの親バカ執事なんです。私は自分が見たこと感じたことしか信じませんし、彼らの育った環境によって態度を変えるつもりもありません。お気遣いなく」

淡々と告げるあやめの冷静な態度に、女性の顔はますます怒りで真っ赤になった。

般若のようでちょっと怖い。

だが、あやめは彼女の通常時の青白い顔色の方がさっきから気になって仕方なかった。

「ところで、貴女は貧血なのではありませんか?生理痛とかひどくありません?」

「えっ、不躾になんなのよ、あなた」

「申し遅れましたが、私はセントヒルズホスピタルの外科医で杜若と申します」

「ええ?お医者様なの?どうみても高校生・・・あっ・・・」

女性の動揺した態度に、フフっ、と再度あやめは笑みをこぼした。

「ね?人は見かけによらぬもの、でしょ?よかったらお話をお聞きしますよ。こちらにおかけください」

売られた喧嘩はいつの間にか彼女のお悩み相談にかわっていた。
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