救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~
「お名前は聖川光治(ひじりかわこうじ)さん。生年月日は昭和X年8月8日で間違いないですか?」

「はい。間違いありません」

ふと自分の左腕を見ると透明の針が深々と留置され、接続されたルートの先ではものすごいスピードで点滴が落とされていた。

光治はどうやら気を失った後すぐにこの病院に運ばれて来たらしい。

メディカルカーに乗ったことも点滴されたことも全く覚えていない。

「事後承諾で申し訳ないのですが、聖川さんのスーツのポケットに入っていた携帯と免許証から身元を確認させて頂きました。また、お持ちになっていた名刺から勤務先を特定、会社の方からご家族に連絡して頂きこちらに向かってもらうように調整しましたのでご了承下さい」

そんな童顔女医の言葉に

「私も、成人しているのですから敢えて親を呼ぶ必要はないのでは?」

と、光治は無理やりここに運び込まれたことへの不服もあり、つい嫌みな口調になって言い返していた。

「ええ、私も一応成人していますが同じ状況なら家族が呼ばれます。もちろん、このままご帰宅頂けるのなら、必ずしもご家族に来てもらう必要はありません。ですが、聖川さんは虫垂炎しかも膿瘍を形成していて、それが破れて腹膜炎を起こしている状態です。治療には手術が必要となります。疑問や質問もおありかと思いますので今から詳しい説明をさせて頂きますね。ホールにお待ちのお父様もお呼びしましょう」

童顔女医は、看護師に目配せをした。

その傍らで、自らは電子カルテパソコンや必要な検査データの印刷物、同意書類を準備している。

小さくて確かにパッと見は高校生のようにしか見えないが、紫色のスクラブを着てカルテに向き合うその姿は、誇り高き孤高の医師そのものだった。

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