救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~
これまでの時間経過を振り返ってみても、光治と田中に一泡ふかせてやる、というあやめの思惑はことごとく失敗に終わっている。

仕事の後の唯一の楽しみである夜のランニングまで光治とご一緒しなければならなくなった。

゛お礼はいらない゛

と、一様に拒否してきたにも関わらず情に訴える手段に負けて、一点物の高級浴衣のみならずランニンググッズまで受けとることになってしまった。

夏休みとしてもらった7日間は、なぜか光治のN島観光とドッキングされ、行き帰りの交通手段まで確保されてしまった。

「そういえば島には旅館が1つしかありません。突然で空いていないかもしれませんし・・・別の機会に出直した方が」

嘘ではない。

夏休み期間の島観光は比較的人気があり、5部屋しかない小さな宿は予約が取れないことも多いのだ。

「先程お電話して問い合わせたのですが、あやめ様のお友達だとお伝えしましたところあやめ様のおじいさまに電話が繋がりまして・・・なんとご親切にも杜若家に泊めて頂く運びとなりました。感謝申し上げます」

「はっ?じいちゃん、何やってんのよ」

思わずあやめが目の前にいない祖父に突っ込みをいれてしまったのは話の流れ的にも仕方があるまい。

「わかりました。・・・もう好きにしてくださいよ」

祖父や地元の人間にまで話が伝わってしまってはもはやどうにもできない。

いまや、医者となったあやめは父と並んで島の英雄扱いになっている。

だから今頃、彼らは諸手をあげてあやめの友人を出迎える算段を始めているに違いない。

「あやめさん、抹茶のケーキが残っていますよ?」

ことの成り行きを他人事のように見守っていた光治が、先ほど購入してくれた抹茶のケーキをあやめに差し出してきた。

゛ケーキには罪はない゛

「ありがとう」

あやめは半分やけになって抹茶のケーキを口に放り込んだ。

抹茶のケーキもやはり絶品だった・・・。
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