救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~
夏休みの村営グランド。

無人のはずのそこには多数の村民がグランドのフェンスに添うようにしてヘリの風圧を避けなから立っているのが上空からもわかった。

元気で比較的若い村民のほとんどが出迎えに来ているのではないかという人数だ。

このグランドは通常、スポーツの練習や大会といった用途に使われるのだが、緊急時には本土からくるドクターヘリの離発着場所としても使用される。

その時には、砂埃が舞って悲惨なことになるので村民の若い衆総出でグランドの水撒きをしなければならない。

だからこそヘリの離発着許可は緊急時に限られるはずなのだが・・・。

恐る恐る光治と博志、田中を見るが、いずれもニコニコと笑っているだけで答えてはくれなさそうだ。

聖川家の権力の前に、もはや深く考えては無駄だと悟ったあやめは、諦めて着陸の時を待った。

「お帰り。あやめ」

「あやめ先生、おかえりなさい」

大好きな祖父と可愛い従姉妹の子・ももか、そして慣れ親しんでいる村民達に出迎えられ、あやめの強ばっていた顔もつい綻んだ。

「聖川社長ご一行様もようこそおいで下さいました。何もない辺鄙なところではございますがどうぞおくつろぎ下さい」

そんな祖父・杜若昭次郎はこの島に唯一ある村の村長だ。

そんな祖父は、光治だけでなく聖川社長までもがこの゛観光旅行゛に同行することを事前に知っていたらしい。

「先に寄越していた者達の働きはどうですか?」

「それはもう、あっという間に・・・」

「ならば安心しました」

博志社長の゛先に寄越した者゛との発言が気になる。

「あやめの父親は在宅診療に出ています。出迎えに来られずに申し訳ないと申しておりました」

「いえ、構いませんよ。突然押しかけた我々が悪いのですから」

あやめと祖父、聖川ご一行様の様子を横目に、周囲の面々は出迎えたことに満足したのかわらわらと解散していった。

「あやめちゃん、そしてお兄ちゃんもこっちだよ」

そんな中、あやめの従姉妹の子供である七歳の゛ももか゛があやめの手を引いてくれた。

そうなると必然的にあやめの手を握って離さない光治も引き連れることになるのだが、それでも光治はあやめの手を離そうとはしなかった。

「あやめ先生の王子様はゾッコンだな」

「んだ、んだ」

少し離れたところから元気なお年寄りの冷やかしが聞こえた。

恥ずかしくなったあやめは、

「光治さん、いい加減手を離して」

と睨みを利かせて言ったが

「昨夜゛これくらいはいいですよ゛と言ったのはあやめさんではないですか?」

と、あやめがうっかり溢した言葉に揚げ足を取られてため息をつくのだった。

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