救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~
N島は全周50kmのでこぼこした楕円形の島。

海岸沿いには車道があって、海水浴場だけでなく、スキューバダイビングやシュノーケリングのスポットが点在している。

村の中心部は、診療所や役場のある区画となっていて、島唯一の商店街やたった一軒の旅館もそこにある。

津波被害を避けるため、町は必然的に島の中央部、山を切り開いて平野にした部分に作られていた。

島の北側は岩場が多いため、レクリエーションには適していない。

「光治さん、この先に絶景といわれる岬があるんです。行ってみますか?ちょっと厄介な伝説もあるところだけれど、友人同士の私たちが行く分には問題はないかと」

「ええ、是非。あやめさんと訪れる場所ならどんなところでも運命的だと信じられますから」

運命など大袈裟な・・・と言えない場所ではあるが、島の代表的な観光スポットであるので外せない。

肝心の伝説については黙っていれば良いだろう、とあやめは腹を括った。

駐車場からは少し歩く。

ランニングが趣味のあやめには何てことはないが

゛インドア派の病み上がり王子には少々きついのではないだろうか゛

と、あやめは思った。

そんなあやめの懸念が伝わったのか、光治は

「こう見えて趣味はソフトな筋トレですよ」

と微笑んで見せた。

゛そういえば適度な細マッチョだったな゛

あやめは診察したときに見た光治の見事な腹筋を思い出してクスリと微笑んだ。

「僕の体つきを思い出しましたか?」

光治の唐突な問いに、あやめは呆れたように言った。

「こんな神聖な場所でそんな誤解を招くような言い方良くありませんね」

「誤解ではありませんよ。現にあやめさんは僕以上に僕のことを把握している」

確かに検査データや体の健康状態、一般的な生活歴は把握している。

しかし、だからと言ってそれだけで光治の全てを知っていることにはならないだろう。

そんな会話が終わる頃には、タイミング良く二人は岬の最南端に到着していた。

都心のくすんだ色とは全く違う真っ青な空と海。

海面に反射する太陽光はクロスを型どるように反射している。

空には龍を模写したかのような真っ白な雲が天に向かって伸びていて神秘的だ。

「ここでキスをしたカップルは永遠に離れることはない」

ボソッと呟いた光治の言葉に、゛何故そんなことを知っているのか゛と驚いたあやめは反射的に光治を見上げてしまっていた。

゛まずい゛

あやめがとっさに顔を反らそうとしたその瞬間、光治の柔らかな唇があやめの小さな唇を優しく啄むように包み込んだ。

戸惑いも焦りも甘く溶かしてしまうような口付け。

角度を変えて繰り返されるキスは、徐々に深さを増していき、あやめの警戒心すらも溶かしていった。

ここは、島を守る神様が祀られた神聖な場所。

あやめはそんな大切な事実も言い伝えの恐ろしさも忘れて、暫し光治から与えられるキスの甘さに酔いしれていた。

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