救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~
「ずっとご両親への自責の念に心を傷めていたんでしょう?卓次郎さんも、昭次郎さんもとっくに気付いていたようですよ」

光治の言葉に、あやめはカッと目を見開く。

゛気付いていたとは?そんな話、今だかつて父とも祖父ともしたことはないし、ましてや、いつ光治があやめの夢や負い目について彼らと語る機会があったと言うのだろうか?゛

あやめの混乱をよそに、魂を祀る丘に爽やかな風が吹いた。

「ほら、楓さんもあやめさんを励ましたいみたいだよ」

サラサラと落ちてきた楓の葉っぱがあやめの頭を撫でるようにかすめて地面に落ちた。

二人が頭上を見上げると、まだ緑色した楓の葉っぱがそよそよとそよいで爽やかな音を奏でた。

それは、あたかも風になった楓が『大丈夫だよ』とあやめを励ましているかのようで、あやめの心はほんわりと暖かくなった。

「少し雲が出てきたようだ。みんなも待っているだろうから、そろそろ行こうか。ここにはまた本土に戻る前に報告に来ればいい」

゛何を報告に?゛

光治の言葉に引っ掛かりを覚えたあやめだったが、父や祖父母とは一度は楓のことやあやめの将来のことについて腹を割って話し合わなければならないだろうとぼんやりと思っていたのてでその事だろうと思った。

楓の墓を訪れたのは、光治と交わることのない未来について納得してもらうためだったが、なぜか違った方向に話が進んでいるような気がしてならない。

あやめは後ろ髪を引かれながらも、光治に促されて楓の樹のある墓地をあとにした。

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