救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~
「私はあやめが医者になってこの島に尽くすことで、あやめの楓や我々に対する劣等感が消えるのならそれでいいと思っていた。だが、それは消えるどころか益々増幅する一方だ。恋愛すらしようとしなかったじゃないか」

父は穏やかな表情だったが納得はしていないという顔をしていた。

「あやめは、楓の死の真相について知るまでの自分の夢を覚えているか?」

「おっふ・・・」

真面目な顔から一転、ニヤニヤ茶化す父の表情からは嫌な予感しかしない。

「ほら、あれだよ。お気に入りの絵本」

「や、やめてよ。そんな子供の頃の話。覚えているわけが・・・」

「父さんはよーく覚えているよ。それまでのあやめは、あれを片時も離さず、寝るときうっとりと眺めては゛私もこのお姫様のように幸せになる゛って言っていたもんなあ」

なぜ、急にそんな話が出てくるのか?

今は真面目な話をしていたはずだ。

あやめの将来を左右するほどの真剣な話。

そんなときに馬鹿も休み休み言って欲しい。

あやめは卓次郎が始めた突然の話題転換に頭がついていかずに混乱を極めた。

「Sleeping Beauty 」

「ぎゃあ」

゛マジ、ギブ。本気でやめて欲しい゛

あやめは再びタオルケットに潜って頭を抱えた。

「眠れる森の美女。あやめもようやく王子さまのキスで目覚めることができたんだ。ここで素直にならずにどうする」

「Stop it(やめて~) !」

古くて歴史のある杜若家に、あやめの雄叫びが響いた。
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