救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~
「かしこみかしこみ・・・」

気が付けば、あやめは祝詞を捧げる神官と鈴を手にする巫女の前で、なぜか光治と並んで立っていた。

゛島の岬でキスをした(第3者の立ち合い必須)カップルは永遠に結ばれる゛

それは昔から言い伝えられてきた島の竜神様の決定事項で、この島に住む夫婦は皆、通過儀礼としてこの恥ずかしい゛公然岬キス゛と゛人前結婚式゛を経験してきている。

゛でも、ドローン生中継は第3者の立ち合いには含まれないんじゃないの?゛

あやめがそんな疑念に取り付かれている間にも順調に式は進んでいく。

大きな疑念を抱きながらも、あやめが口を挟めないのには訳があった。

結婚式の間、新郎新婦は竜神様を敬い一言も言葉を発してはならないとされているからだ。

『言葉を挟めば怒りの炎に街が包まれる』

まことしやかに語られるその言い伝えは、きっとうちの父や祖父母、聖川の策士な面々のような輩が考え出した方便に違いないと、あやめは確信していた。

新郎もしくは新婦が結婚に納得いかなくても、言い伝えを守らなければ自分のせいで村が滅びるかもしれない。

そんな新郎もしくは新婦の恐れや不安を利用した策略としか思えない。

事実、過去に言い伝えに従わずに捨て台詞を残して逃げ出した花嫁がいたらしいが、その日から村は連日日照り続きとなり、歴史的な大飢饉に襲われたことがあったらしく、そのことが更に言い伝えの信憑性を増してしまったらしい。

加えて、あやめ自身が人の身体に触れればその人の健康状態がわかるという不思議な能力の持ち主であり、それは゛島の竜神さまから授けられた稀有な能力゛と言われて育ってきたため、言い伝えは迷信、と聞き流すだけの度量をあやめは持ち合わせていなかったのだ。

゛人の心理をついた卑怯な手口!゛

と罵りたいが、神官の前に置かれた竜神さまの像と三種の神器がそれを言い留めさせた。

悶々としているうちに、いつの間にか祝詞が終わり、光治とあやめの前に3つの杯が置かれた。

「これより三献の儀を執り行います」

三献の儀とは神様の前で夫婦の契りを交わす儀式だ。

ここまで来たらもう後には引けない。

3つの大中小の杯には「子孫繁栄」、「二人の誓い」、「ご先祖様への感謝」という意味がある。

゛マジで?誓っちゃうの?こんなに流された感じで結婚してもいいの?゛

あやめが戸惑っていると、参列している村人の中から

「呪いが・・・」

という呟きが聞こえてきた。

しかもその直後、あろうことか満点の星空から、何やらゴロゴロと雷のような音が聞こえ始めたではないか・・・。

すでに光治は小さな杯のお神酒を飲み終え杯を神官に返し、じっとあやめを見つめている。

神官はその杯をあやめに渡そうと手を差し出している。

巫女もお神酒を注ごうと待機している。

集中する父と祖父母、聖川の面々、村人の視線。

タイミングよく轟く雷鳴・・・。

゛こんなの飲まないわけにはいかないじゃない゛

あやめは半ばヤケクソになって杯とお神酒を受け取り一気に飲み干した。
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