救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~
「光治さんも、お父さんも、みんなひどい・・・」

人前式の全行程を終え、普段着に着替えたあやめは酔いに任せてダラダラと愚痴をこぼしていた。

久しぶりの島での結婚式にお祭り騒ぎだった村民達も自宅に帰り、人の気配のなくなった杜若家は閑散としていた。

聖川社長と田中執事、卓次郎は、光治とあやめの結婚式の興奮覚めやらずといった感じで、昭次郎宅で二次会を始めてしまっている。

今夜はそのまま昭次郎宅に泊まるらしい。

そう、今夜は紛うことなきいわゆる新婚初夜。

周囲が気を利かせた結果の゛二人きり状態゛なのだが、全てが納得いかないあやめには的はずれな機転でしかない。

腹立たしい気持ちのまま風呂場へ駆け込んだあやめは、シャワー後、準備していたスウェット上下に着替えようとしたのだがいつの間にかシルクのネグリジェ(寝間着)に代えられていて戸惑っていた。

あの能面みたいな侍女の仕業だろう。まあベビードール(下着)ではなかっただけましか・・・。

いつもなら絶対に゛罠゛たとわかりきっているネグリジェなど着てはやらないのだが、酔っぱらい気味のあやめはいつになく寛容な気持ちで素直にそれを身につけることにした。

こんなにスムーズに事が進むなんておそらく光治は竜神さまに味方された福男に違いない。

「あやめさん。僕もシャワーをお借りしてもいいですか」

いつの間にか洗面所にやって来ていた光治があやめに声をかける。

「ん・・・どうぞ・・・好きに使って」

シャワーを浴び、体温が上がって更に酔いが回ったてきたあやめは気だるげに光治に返事をした。

「大丈夫?」

髪も乾かさずに部屋に向かおうとしたあやめがふらついたところをすかさず光治が支えた。

甘い柑橘系のシャンプーの匂いが光治の鼻孔を掠める。

「眠い・・・」

「少し位なら眠ってもいいけど、完全に寝落ちしてはダメだよ?お姫様」

光治は軽々とあやめの身体を抱き上げると、階段を上ってあやめの部屋まで行き、広々としたベッドの上にあやめを横たわらせた。

「もう少し待ってて」

光治は寝落ちしそうなあやめの額にそっとキスをすると、名残惜しそうに部屋を出ていった。

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