救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~
口腔から冷たい液体が少しずつ流れ込んでくる。

飲み干せなかった液体が、首筋を通って胸元を伝う冷たさに驚いて、あやめはうっすらと目を開いた。

「お酒だけを飲んで寝ると急性アルコール中毒になっちゃいますよ、あやめ先生」

確かにアルコールの飲みすぎは血管内脱水に陥るから、合間にウーロン茶やミネラルウォーターを挟むことは理にかなっている、そう考えるあやめの思考も正常に傾きつつあったが、まだまだ酔っぱらいの域だ。

チュッと、触れるだけのキスをするこの男性は誰だろう・・・?

あやめはマジマジと目の前の男性を見つめた。

゛カッコいい・・・゛

見れば見るほどあやめの理想通りの王子様だ。

細マッチョで長身。

整った顔立ちにキメ細かな肌。

男性にしておくにはもったいないこの男性が自分を見つめて微笑んでいる。

゛夢じゃろか?゛

あやめはうっとりしなから光治の頬を撫でた。

「あやめさん、僕たちは夫婦になった。君を名実ともに僕のお嫁さんにしてもいいかな?」

アルコールで脱抑制状態になっているあやめが押し留めていた欲望を塞き止めるものはもはや何もない。

「お嫁さん?」

「そうだよ。お姫様は僕のキスで目覚めたんだ」

子供の頃に読んだ絵本の王子さまが迎えに来てくれた。

もう守るものも、縛られなければならないしがらみもなくなってしまった。

あやめは夢見心地でうっとりと頷く。

゛躊躇うことは何もない。本能に従え゛

あやめの中に潜んでいた悪魔がヒヒヒ、と笑った。

「ありがとう。遠慮なくいただきます」

光治の羽のようなキスが次第に深さを増していく。

あやめの身体を這う光治の手が、舌があやめの官能を引き出していく。

゛もう何も考えたくない゛

あやめは煩悩を払いのけて、目の前の王子に自らを差し出す覚悟を決めた。
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