救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~
約一時間後。

あやめはニューベリーヒルズビルの屋上に到着していた。

高性能最新型ヘリは揺れも少なく快適な旅を確約してくれた。

だが、この怒濤の一連の流れは何だろう?

全てにおいてあやめの意志は無視され、濁流に流されるようにこの場に追いやられてきた。

その流れは、光治と出会ってからずっと続いている。

ヘリを降り、専用のエレベーターに乗せられ光治と田中と共に降り立った先には、大勢のマスコミ関係者および聖川ホールディングスの社員一同が待ち構えており、たくさんのお祝いの言葉とともに無数のフラッシュをおみまいされた。

そして極めつけは・・・。

「いったい何なの?ここは」

「あやめと僕の新居だよ」

たどり着いた先は、聖川ホールディングスが誇る一戸数億円を越えると言われる高級物件が軒を並べる低層レジデンス。

美しい中庭、そして、気遣いとマナーが行き届いたコンシェルジュ達が素晴らしいと巷でも有名な最高の物件。

「この上の最上階には、僕の父と祖父母が住んでいるんだ。同居しようと誘われはしたんだが、僕はあやめと二人がいいから断った。もしかしてあやめは最上階が良かった?」

的はずれな光治の質問に、あやめは二の句を繋げない。

「それに、私の荷物・・・」

「ああ、昨日のうちに秘書に命じてあやめの荷物は医師公舎から運び出しておいたよ。もちろんお義父さんの許可も得ているし、鍵も彼から預かって開けたから心配いらない」

゛何が『心配いらない』じゃ、こら!゛

すかさず脳内で突っ込みを入れるも、内心もう何が起こっても驚かないと思える程にはあやめは光治に絆されていた。

これまで自分の意志で、自分の好きなように生きてきた自負のあるあやめだったが、そんな持論が一切通じない唯一の相手、しかもそれらを覆すだけの実力を伴った光治を゛患者゛として拾ってしまったあの瞬間から、あやめの運命の歯車は大きく狂いだしてしまったのだろう。

そう、全ては自分のせい、つまりは自業自得なのだ。

空には竜神様も見ていたし・・・。

そう思えば諦めもつく(かもしれない)。

はあ・・・とため息をつくあやめは、決して光治に腹を立てているわけではなかった。

珍しく不安そうにあやめの顔を覗き込み

「強引過ぎて怒ってる?」

と、今更なことを言ってくる光治が何だか可愛いくて笑った。
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