救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~
しばらくして帰宅してきたあやめを光治は問い詰めたくて仕方なかったが、

「おかえり。今日は遅かったんだね」

と言うにとどめた。

「うん。知り合いに会ってたものだから」

誠実なあやめのことだ、嘘はついていないに違いない。

だが、本当は何を話していたのか、二人はどんな関係なのかも知りたいのだ。

そんな個人的なことを聞いていいものなのか、それすらもわからないくらいに光治は人付き合いが苦手だ。

ましてや、夫婦とはいえ相手は恋する相手。

独占欲をモロ出しにして嫌われたくはない。

悶々とする光治は行き場のない想いを抱いて、閨の途中で愛を囁く。

「好きだよ、あやめ」

「ふふ、ありがとう」

どんなに甘く囁いても、優しく抱いても、あやめは光治の欲しい言葉を言ってはくれない。

無理やり奪った罰なのか?

はたまた自分勝手に翻弄していることへの不満の表れなのか?

あやめに尋ねることも、問い詰めることもできないまま、光治は自分の中の不安と一人戦うしかないのだった。

「そうでございましたか。あやめ様に限って間男と浮気をするようなことは万が一にもないと信じておりますが、不肖この田中が責任もって調査いたしましょう」

「いや、いいんだ。田中。僕とあやめの問題だ。僕自身で乗り越えなければならない事柄なんだと思う」

光治の言葉に田中がうっすらと涙を浮かべる。

「成長なさいましたな」

「まだまだ課題は山積みだよ」

光治は苦笑しながらも自分に言い聞かせる。

いつかあやめが僕を好きになってくれると信じたい。

それが強引に話を進めてしまった自分への戒めとなるのだから。

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