救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~
光治とあやめの休日が重なる貴重な日。

ようやくあやめとの二人の時間を満喫できると喜んでいた光治を悲しい現実が襲った。

「今日は午前中、友達と出かける約束をしているの。お昼には解放されると思うんだけど、光治さんは午後から何か用事がある?」

あるはずがない。

あやめと過ごしたいと思って仕事を片付けて段取りをしていたのだ。

独り善がりだったが、たった今予定が潰れてしまった光治にそんな質問をするあやめは、本当は悪女か何かではないかと思った。

「用事なんてないよ。空いた時間は全部あやめと過ごしたいと思っていたからね」

少し嫌みっぽくなったが、これくらいの言動は許されるだろう。

「本当?嬉しいな。それなら光治くんの午後の時間を私にちょうだい。後で連絡するね」

婚姻届を提出した日から、あやめは光治を親しげに゛光治くん゛と呼ぶようになった。

患者にも知人の男性にも隙を見せないあやめの゛特別゛になったようで嬉しかったのだが、今の光治にはやましさを隠そうとするあやめのあざとさなのではないかとの疑念が宿っていた。

あやめを信じたい、信じたいのに自信が持てない。

それに今日は・・・。

光治は悲しみと不安に支配されそうになる自分を戒め、このまま後をつけて浮気の証拠を突きつけてしまいたいと考えてしまう自分の黒い感情に蓋をして、あやめと過ごせるであろう午後の時間を今か今かと待ち焦がれるのだった。
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