気付いたらゴーストでした。
「ん? ああ。コマ割りするペンの事。インクを付けて描く万年筆みたいなものよ?
ミリペンでコマ割りする子もいるけど、私は断然カラス口が好きなの。
線の太さが変えられるし、アイシーインクの黒が綺麗に出るからね」
『……へぇ』
専門的すぎて内容が全く入ってこないが、花純さんの情熱だけは伝わった。
漫画について語らせたら一時間でも二時間でも喋っていそうな勢いがある。
しかし上手い絵だなぁと思い、広げられた原稿用紙をしげしげと見ていると、「あ」と言って花純さんがササっと片付け始めた。
「お子様は読んじゃダメ。刺激が強すぎるわ」
『……はぁ』
刺激って。一体どんな内容を描いているんだ? 官能か?
ドヤ顔で大人ぶる彼女を見て、ついフッと吹き出してしまった。
『アハハッ』
声を上げて笑うと、花純さんはパァッと目を輝かせ、両手を合わせて「可愛い〜っ」と突然体をくねらせた。
「ね、ね? もっと笑ってよー?」
『……ハ?』
「ああんっ、もう! ぎゅって出来ないのが惜しいぐらい!」
言いながら彼女は僕に抱きつこうとして、空振りしている。
彼女に言わせると、可愛いものは何でも抱きしめたいらしい。
この人は……。