気付いたらゴーストでした。
 ショルダーバッグの紐を両手でギュッと握り締めている。

『花純さん……? 入らないの?』

 彼女は扉の前から少し離れて、ベンチの置かれた談話室へと向かった。

 部屋には誰もいなかった。

「ごめん、ゴウくん。私は行けないや」

『え……?』

 花純さんは虚空を見つめたまま、悲しそうに眉を下げた。

「元々知り合いだっていうのは嘘だし。静子さんがお子さんを亡くされたのは三日前だし。
 ……そんなの申し訳なくて。やっぱり、行けない……」

 ポツポツと俯きながら呟き、花純さんはグス、と鼻をすすった。

 多分。彼女は皇さんに同情を寄せて泣いている。

 でも、ここまで来て行かないという選択をしては意味がない。

 そう思うのだが、僕一人であの病室までたどり着けるだろうか?

 花純さんと繋がれたあの白い糸に阻まれたりはしないだろうか?

 心配と不安はあったけれど、僕は落ち込む彼女を見て、優しく言った。

『それじゃあ、オレ一人で行ってくるね?』

 彼女はハッとして顔を上げた。

 花純さんが悲しみに暮れているのが分かったから、僕はありがとうの意味も込めて微笑むのだが。

 僕を見つめるその瞳にドキッとさせられる。
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