気付いたらゴーストでした。
 ヒロインの幽霊が物体にさわるために、小さな女の子の幽霊に特訓してもらって習得する、そんな内容だ。

 病院の廊下に置いた紙コップを蹴飛ばす訓練。生きている人間なら普段何気なくできる事が死者には難しい。

 死者は肉体がないので、そこを気持ちでカバーするというセリフもあった。

「気持ちをおへその下に集めて一気に吐き出すんだって? ゴウくんも出来るかもよ?」

 僕は彼女を見て、呆れて息をついた。

『こういうのは、作り話ですよ?』

 花純さんにとっては単なる興味本位かもしれないけど。

 僕にとっては大問題だ。

 彼女は「そっかぁ」と呟き、残念そうに肩をすくめていた。

 幽霊(ゴースト)が気持ちひとつで物体にさわれるのなら、僕だってとっくに彼女に触れる訓練をしている。

 目の前に置いたコップひとつ持ち上げられない。

 なんで僕は死んでるんだろう。

 死んだらなにもかもおしまいなのに。

 不満は堂々巡りだ。

 好きな人と一緒にいる事が叶っても、さわる事すらできない。

 僕がどれだけ彼女を想っても、なんにも報われない。
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