気付いたらゴーストでした。
 好きという気持ちを伝えられたとしても、既に肉体が無いのだから花純さんを困らせるだけだ。

 僕には彼女と違って未来がない。

 でも、花純さんは違う。

 花純さんには専門学生という区分があって、花屋の店員という仕事もある。

 将来は少女漫画家になりたいという夢もある。

 そして極めつけには好きな人がいる。

 彼女はすでに失恋と決め付けているが、生きている人間には可能性がある。

 誰にも計り知れない可能性が、無限に広がっているんだ。

 *

 花純さんの恋が急展開したのは、それから更に一週間を重ねた水曜日だった。

 店先に現れたのは、制服姿の男女数名。高校生らしい彼らを見て、花純さんは「あ」と呟いた。

「いらっしゃいませ」と声をかけに行く。

 花純さんの接客に、一人の男子が反応した。

「あ、すみません。見舞い用の花束を作って欲しいんですけど……」

「お見舞い、ですか…。どういった感じにされますか? ご予算とか……」

 花純さんの言葉どおり高校生はめったに来ないので、僕は彼らとのやり取りをしげしげと眺めた。
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