気付いたらゴーストでした。
「ありがとうございます。念のため、ここに病室と名前、書いておきますね?」

 篠原は手早くメモをし、花純さんに手渡した。

「三階南病棟、302号室なんで」

「分かりました」

 花純さんが小さく会釈すると、高校生グループは手を振って去って行く。

 彼らの後ろ姿を見つめ、花純さんは今し方貰ったメモを大事そうに握りしめていた。

 僕はそんな彼女を見て、ただただ存在しないはずの胸を痛めた。

 きっと、気持ちの上では泣いていたはずだ。

 この日が僕の、”失恋記念日“だったから。

 *

「私……、明日行くね?」

 部屋の扉を閉めてすぐ、花純さんは静かに僕に語りかけた。

「明日学校だけど……。彼が心配だから、休んでお見舞いに行く。ゴウくんも来てくれる?」

 僕は少しの間をおき、コクンと頷いた。

 彼女と糸で繋がれている僕に、もはや拒否権はない。

 彼女と共に、行くしかないのだ。

「ありがとう」

 そう言って、花純さんはその大きな目からポロッと涙をこぼした。

 コタツテーブルのそばに持っていた鞄を下ろし、その場にしゃがみ込む。

 膝を抱えて、彼女はうずくまっていた。
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