気付いたらゴーストでした。
 仕方なく僕は天使の言う通りにしようと思い、ベッドで横たわる蓮に足と腰を合わせて座った。

 そういえば。

 花純さんに何も言わずに出てきちゃったけど……大丈夫かな?

 でも戻ったら二の舞になりそうだしな、と考えを巡らせていると天使が今思い出したように言った。

《あ、そうそう。言い忘れたんだけどさぁ。戻ったら全部忘れちゃうから》

『は……?』

 怪訝な瞳を向けると、天使は事もなげに続ける。

《ゴーストでいた頃の記憶、忘れちゃうから》

『えっ! それって……?』

《もちろん、ゴーストのキミといた彼女からも、"ゴウくん"の存在は綺麗さっぱり消えちゃうから、問題はないよ?
 んじゃまっ、そこんとこヨロシク〜?》

 ヨロシク〜って。んな軽いノリで言われても……。

 今すぐ戻るべきなのか幾らか躊躇っていると、天使がニヤッと笑い、僕の気持ちを後押しした。

《記憶を取るか、生きた体を取るか、二つに一つ。頭の良いキミになら分かるよね? 何てったって、生きてる人間には可能性があるんだから》

 僕はハッとし、深く眠る蓮を見つめて、ゆっくりと体を倒した。

 生きていれば未来がある。

 この先も続く、花純さんと同じ世界で生きる未来が……。

 ゴロリと寝転がった体勢を取ると、それまで忙しなく機能していた思考が静寂に包まれ、何も考えられなくなる。

 それは、溶けて消えていく感覚だったのかもしれない。

 還って行くんだと思った。

 然るべきところへ、あるべき居場所へとーーー。
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