気付いたらゴーストでした。
 彼女と少年のやり取りをぼうっと見ていて、ついつい非現実的な事を考えてしまう。

 俺も、あんな小さな少年だったら……彼女と仲良くなれるかもしれないのに。

 足元を見つめてため息を落とす。

 いつも恥ずかしくて、スムーズに会話できない自分を情けなく思っていた。

 子供の無邪気さは武器だ。

 あの笑顔一つで大人は(ほだ)されてしまう。

 俺だって子供だったらきっと……。

 考えても仕方のない仮定に眉間をしかめ、一直線に花屋へ向かった。

「……あ。いらっしゃいませ」

 今、あ、って言われた。やっぱり覚えてくれてる?

「あの……、バラを一本、ください」

 至近距離で彼女を見るのが恥ずかしくて、僕はやはり目を逸らしてしまう。

「いつもの赤いバラですね? 良いの探しますので、少々お待ち下さいね?」

「………あ、はい」

 お姉さんは笑みを含んだ声で、バラの入った銀色の筒へと踵を返す。

 彼女が離れてからようやくその姿をまじまじと観察し、見惚れた。

 今日も。相変わらずの可愛さだ。

 花を愛でる横顔なんて女神そのものだ。

 僕は彼女を見つめて、次第に心音が速くなるのを感じた。

「こちらはどうでしょう?」

 やがてお姉さんは数ある中の一本を探し出し、僕に見せてくれる。

 毎週、この時のこの瞬間がたまらない。
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