気付いたらゴーストでした。
 正直、バラを見るのは一瞬で、この時だけは彼女の顔を"ちゃんと"見る事ができる。

「それで……、お願いします」

 彼女は頬を少しだけピンク色に染めて、「かしこまりました」と笑みを咲かせる。

 やっぱり、可愛い。

 レジまで進み、僕は彼女にお金を支払う。

 会計は数枚の小銭で済むのだが、いつも決まってお札を出すようにしている。

 何故なら、お釣りがあった方が彼女との時間を長く感じられるし、小銭の受け渡しをした方が、彼女に触れられるからだ。

 ストーカーじみているかもしれないが、好きな人に触りたいと思うのは、ごく自然な感情だ。そしてこれが唯一の手段なのだ。

 彼女は僕の手にお釣りを乗せて、それからレシートを渡してくれる。

 彼女の白い指を見つめて、指輪をはめていないのも既に確認済みだ。

 彼氏なんていない、のが理想だけど。実際のところはどうなんだろう?

 もちろん、聞けるわけない。

 一本のバラを丁寧にラッピングしてくれる彼女を待ってから、僕は商品を受け取った。

 ペコッと会釈してから、踵を返す。

 毎回こんな感じでほとんどプライベートな会話はしないけど、彼女の存在をすぐ近くに感じられるのが何よりの幸せだった。

 彼女は今日も可愛かった、笑顔だった、そう思うだけで天にも昇りそうな気持ちになる。

 名前も知らない人だけど、僕の気持ちは日に日に膨らみ、今にも溢れ出しそうになっていた。


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