気付いたらゴーストでした。
 彼女の容貌をはっきりと認識し、僕は慌てて顔のマスクを外そうとした。

「まっ、まだ取っちゃ駄目ですっ」

「………え、」

「多分、ですけど」

 酸素マスクを押さえた僕の右手に、彼女の手が触れていると感じて、カァッと頬が熱くなる。

「蓮、どうし、」

 それまで医者の到着を廊下で窺っていた母さんがまた病室に戻り、僕と彼女の様子を見て、キョトンとする。

「あ、あのっ。"蓮くん"がマスクを外そうとしたので、それをとめて……、す、すみませんっ」

 えっ、れ、蓮くん??

 彼女は僕の手に触れていた手を慌てて引っ込め、涙声で母さんに弁明していた。

 すぐそこに彼女がいる。

 今までずっと見つめる事しか出来なかった、あの花屋のお姉さんが僕の病室にいる。

 僕の名前を呼んで、今も心配そうに僕の様子を窺っている。

 なんで??

 僕は彼女を見たまま激しく狼狽した。

 母さんは僕の表情から気持ちを察したのか、「なるほどねぇ」とにこやかに言った。

 程なくして、病室に医者と看護師さんが現れた。

 母さんにベッドのリクライニングを上げて貰い、僕は曖昧に座った状態で医者を見上げる。

「おや、顔が赤い……血色は良さそうだ」

 医者は僕の顔を見て嬉しそうに笑った。多分、主治医だろう。

 彼は僕のそばに立ったままで「主治医の(たき)といいます」と言って会釈する。
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