気付いたらゴーストでした。
 あの日。

 スマホを取りに戻った樹には、おそらくもの凄いショックを与えた事だろう。

 また顔を見たら謝らないと。不注意でひかれたって。

 母さんは鞄からスマホを取り出し、「ちょっと談話室で電話してくるわね?」と言った。

 こじんまりと立ち尽くす彼女を見て、「悪いけど、少しの間。蓮をお願いするわね?」とも言っていて、僕を動揺させる。

 不意にドキンドキンと心拍数が早くなり、目の合った彼女を見て、うっかり俯いてしまう。

 コラ! それじゃ駄目だろ、俺っ!

 せっかく見舞いに来てくれたのに、何か言わないと!

 仮にも告白する予定だったんだから、彼女に気に入られる言葉の一つや二つ……っ。

 熱くなった顔であれこれ思案していると、彼女が「あの、」と静かに言った。

「そっちに座ってもいいですか?」

 え……っ。

 僕は彼女を見て、コクリと頷いた。

 彼女は僕が今までに何度も見てきた柔らかな笑みで近付き、隅に置いていた丸椅子を引き寄せて座った。

 すぐそばに、あの人がいる。

 花屋の、お姉さんが。

 僕はドギマギしながら、改めて彼女を見つめた。

 どうして、お姉さんがいるんだろうと不思議に思ったが。少し考えて樹が気を回してくれたに違いないと思い当たった。

「昨日……」

「ぅえっ??」

 ドキッと肩が揺れ、思わず変な声を出してしまう。

 ヤバいヤバいヤバい……! 変なやつだと思われる!
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