訳ありの檸檬【中学生日記】
 頭が混乱してきた。
「心の闇」というキーワードに囚われすぎなのかもしれない。
 得体の知れない、不安の塊を抱えている気分だった。決して人には言えない、恥ずかしい過去ばかり。闇という言葉からは、そんなイメージしか出て来ない……

 いま目の前に広がっている原稿用紙、それがまさに、真っ白い闇。ましてや先行きの見えない、将来のことなんて……
 そんなものたちが、否が応でも頭の中を占領し、グルグル駆けずり回っている……


 もっと気楽に、ひと夏の思い出を考えてみようか……その語感は、甘くてちょっと酸っぱい気がした。
 オレはやっぱり彼女と……それを作りたい。そう考え始めると、美しい光景が浮かび始めた。

 美しさに惹かれる……
 それは錯覚だったのかもしれないが……彼女に近づきたいという気持ちが、オレの心の闇でもある変身願望に結びついていた。

「そうだ、彼女になってしまおう。彼女に近付くという、文字どおりのアプローチ……」

 錯覚。現実離脱。
 心が性別を越えようとしていた。気付いたらオレは、母ちゃんがいつも化粧している鏡の前に座っていた。
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