訳ありの檸檬【中学生日記】
 初めてのファンデーション。
 それだけで意識が変わって行く。確実にテンションが上がるのが分かった。

「あたし一体、なにを目指してるのかしら……」

 意識が変わると、言葉が変わる。それは新鮮な感覚だった。

「次はアイメイクよ。ガンバレ、あたし……」

 アイラインを少しずつ重ねて行く。シャドウは淡いブラウンかな。
 ツケマは……止めておこう。盛り過ぎは良くないわ、初めてなんだし。でも……マスカラとビューラーにチャレンジしてみた!

 目もとを仕上げたところで、ウィッグがあったことに気付く。それは、部分的な小さなものだったが、頭に載せると雰囲気がゼンゼンいい。
 ヤバいかも、あたし……

 チークも乗せて行った。うん、カワイイ。
 仕上げはリップね。ピタリとルージュが決まる。
 男の()が完成した瞬間だった。

 ウットリしながら鏡と向き合う。悪くない。悪くはないんだけど…… なにかが足りない。

 ぁ……胸だ。
 ペチャンコだと、やっぱり……

 ちょっとためらったが、洗濯カゴを漁った。
「母ちゃんゴメン……」
 そう心で詫びながら、ベージュ色した母親のブラを回収する。少し匂ってみたあと、それをつけてみた。
 
「やっぱりカップのとこ、淋しいな」
 それは、ぺっそりと潰れたシュークリームに似ていた。そういえば、さっき鼻先で感じていた匂いもシュークリームだったような。

「カップに収まる何か……」
 それを目で追い求めながら、家の中を徘徊する。
 あ、あった。
 レモンが二個、キッチンの隅に。
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