世界が終わるとき、そこに愛はありますか
全力で振り切った脚がちょうど深景さんの腹部に直撃し、あたしを抱きしめる力が弱まった。


その一瞬の隙にベッドを飛び出し、リビングに避難する。


幸い、深景さんが追ってくることはなかったけど、心臓は嫌な音を立てて暴れている。


…別に深景さんのことが嫌いなんじゃない。


彼に求められると嬉しいし、応えたいって思う。


でも、あたしを唯さんだと思って扱われるのはどうしても苦痛だった。


〝あたし〟を見てほしい。


他の誰かに重ねたあたしじゃなくて、あたし自身を見てほしい。


あたし自身を求めてほしい。


たとえそこに恋愛感情がなくても、あたしを求めてくれてさえいればそれでいい。


あたしはそれ以外何も望まない。


だから、唯さんと重ねることだけは受け入れられない。


「…シャワー浴びてこよ」


嫌な気持ちを払い落とすために。


何も覚えていないであろう深景さんと、明日普通に顔を合わせられるように、心をリセットするために。
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