世界が終わるとき、そこに愛はありますか
「……あたしのことを〝唯〟って呼びながら抱こうとしてたんだよ。あたしはそれが嫌だった。ただそれだけ。ねっ、もういいでしょ?この話はやめよう」


無理やり話を切り上げて、洗面所まで行こうと深景さんの横を通り過ぎようとしたとき。


─グイッ


腕を引かれ、そのままスッポリ深景さんの腕の中に収まってしまう。


いわゆるバックハグ。


あたしがこんなことされる日が来るなんて。


しかも、他の女のことが好きな男に。


あたしのことなんて何とも思っていない男に。


「離してよ。深景さんが好きなのは唯さんなんでしょ。あたしは唯さんじゃないよ」


「…雪花だから抱きしめてる。唯の代わりにこうしてるんじゃない」


聞いたことのない儚い声だった。


少し震えていて、消えてしまいそうな声だった。
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