世界が終わるとき、そこに愛はありますか

後押し

深景さんのマンションの前に車が停まった。


「念のため、部屋まで送ってく」


さっきのキス以降、お互い何も喋らなかった。


重苦しく長い移動を終え、車から降りたのに、心はまったく晴れなかった。


星一つない真っ暗な夜空にすべてを吸い込まれてしまったよう。


ロビーにも、エレベーターホールにも、人はいなかった。


─チンッ


軽い音の後、重々しくエレベーターの扉が開く。


そして扉は閉まり、密室になる。


気まずい。


今、涼は何を考えているんだろう。


ただただ1つの狭い箱が上っていくのをジッと待つだけ。


─チンッ


また軽いベルの音が鳴る。


エレベーターを降り、長い廊下を歩く。


ホテルのマットレスのような廊下に足音が吸収され、一切音のない世界に包まれている。
< 168 / 490 >

この作品をシェア

pagetop