きみに ひとめぼれ

勝見君がこんな風に人前で話しかけてくるのは初めてだった。

勝見君はクラスにいる人の目など気にもせず、堂々としている。

なのに、私は人目が気になってしょうがなかった。

勝見君に声をかけられても、早くどこかへ行ってほしいと思ってしまう。



「大丈夫?」



その問いかけに、一気に体中の血が引いた気がした。

それが顔に集まってきて、顔だけどんどん熱くなっていく。

視線を上げると、勝見君はすごく心配そうな顔をしている。

今まで見たことのない目で、私を見つめる。



「なにが?」



無理に笑って答える。

ちゃんと笑えているだろうか。



「今日、数学当てられてるじゃん。一緒に勉強しなくて平気?」




__違う。


  違うでしょ?


  ほんとはそんな心配じゃないでしょ?



「うん、ありがとう。大丈夫だから」

「大丈夫には見えないけど」

「もう、勝見君ひどいなあ。私だってやるときはやるよ」



 目が合わせられない。



「何かあったら言ってよ。

 俺にできることがあれば手伝うし」



__何それ……




 顔に集まっていた熱が、今度は一気に頭に上ってくる。




「勝見君には関係ないじゃん」



思わず大きな声が出てしまった。

驚いた顔をした勝見君が、私の前で固まっている。

見たことない勝見君の表情に、私は戸惑った。



 そんな、顔しないでよ。

 いつもみたいに、目尻を下げてからかってよ。

 本気で私に優しくしないでよ。

 勝見君にできることって何?

 頭をなでて、抱きしめて、手を握って……


 
 そんなこと、頼めるわけないじゃん。

 だって、私と勝見君の間には、何もないんだから。

 そんなの、ダメに決まってる。

 ダメだけど、甘えたい。



 もし私たちも、ちゃんと付き合っていたら……



いろんな思いがあふれてきて、それが涙になりそうで、私は勝見君をその場に置いて教室を飛び出してしまった。


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