きみに ひとめぼれ

勝見君は図書室が似合う人だった。

本に目を落とす姿からは知性があふれ出ていた。

どんな本を読んでいるのかいつも気になっていた。

そっと近づくと、勝見君はいつも目尻を下げて私を迎えてくれた。


突っ伏したまま入り口の方を見たけど、いつまでたっても勝見君が追いかけてくる様子はなかった。

そりゃそうだ、だって、私たちは何でもないのだから。


 そう、何でもない。

 何の関係もない。

 彼氏でも、彼女でもない。

 でも、勝見君は私のこと……。


心の中でぶんぶんと大きく首を横に振る。

 
 違う、違うよ。

 私の勘違い。

 自意識過剰。

 自惚れ。


 何か思わせぶりな態度をとってしまったんだ。

 だから勝見君も勘違いしちゃって。

 ごめんねー、勝見君。


そんな軽い謝罪を心の中でしてみたけど、空しさしか残らない。

その空しさの中から、勝見君との思い出がじわじわとあふれ出てくる。

骨と筋肉がバランスよくついてて、うっすらと血管の浮き出た腕。

シャープペンをくるくると回す長い指。

そこからすらすらと出てくる意味不明な数式。

大きくて温かな手。

胸の中に心地よく吸い込まれていく感覚と、トクトクトクと早く音を立てる心臓の音。

カッターシャツから漂う、優しい匂いと空気感。


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