きみに ひとめぼれ
勝見君は何も答えてくれない。
怒っているのかな?
こんなこと聞く私に、がっかりしたかな。
何でこんなこと聞いちゃったんだろう。
勝見君と少しずつ積み上げてきた時間が、私の言葉ですべて崩れてしまいそうだった。
告白してフラれるより、もっとひどい。
この空気が耐えられなくて、逃げ出したくて、ぐっと目をつぶった。
「ダメ、かな?」
勝見君の声が、ぽつりと私の頭上に落ちてくる。
顔を上げると、勝見君はとても不思議そうに私を見つめている。
「理由がないと、ダメなのかな?」
それから勝見君は空を仰いだ。
私もそれにつられて、上を向く。
雲一つない秋の空は、澄んでいてとても高かった。
「俺は理由よりもむしろ、そっちのほうを大事にしてるかな。
その、「何となく」の方を。
頭で考えるより、直感を大事にする派だから」
その答えは、なんだか勝見君らしい。
勝見君の心は、まるでこの京都の空のようだった。
雲ひとつない、どこまでも高い空色の空。
この同じ空の下にいられることが、私は嬉しかった。
空から視線を勝見君の方に向けると、とてもすがすがしい顔をしている。
何の迷いもない、自分の直感、いわゆる「何となく」を信じる姿が、凛々しかった。
__好き。
私は勝見君に聞いてみたいと思った。
__あの日の直感は……
……私のこの恋も、一目惚れなのかな?
私はふっと笑った。
__また、一目惚れか。
だけど、がっかりはしなかった。
__一目惚れも、悪くない。
そう思ったから。
しばらく空を眺めていた勝見君は、私の方を向いた。
私は勝見君をじっと見つめていたから、急に目が合ってドキリとした。
「あげようか?」
勝見君が不意に言った。
私が返事に戸惑っていると、「いらないか」と苦笑した。
目尻が下がった勝見君。
八重歯がちらりと見える。
この感じ。
この空気感。
好きだな。
何となく。
「私も、買おうかな」
理由なんて、何でもいい。
勝見君と同じものが欲しい、何となく。
「え? マジで?」
と勝見君はおかしそうに笑った。