きみに ひとめぼれ
その瞬間が切り取られた写真だった。
私は鞄にしっかり張り付いて見える生八つ橋を見つめた。
教室を出る前の勝見君の顔。
目尻の下がっていない勝見君。
私に心配の目を向ける勝見君。
数学の心配じゃなくて、本田君のことを心配する勝見君。
勝見君の目に、私はどんな風に映っていたんだろう。
きっとすごく惨めだった。
私、カッコ悪。
こんな姿を勝見君に見られたくなかった。
恥ずかしかった。
もう私のことなんて、好きじゃなくなったかもしれない。
あれ? 何言ってるんだろう。
はじめから、勝見君は私を好きなんて一言も言ってないじゃないか。
勝見君にとって私は、彼女でもなければ、好きな人でもないのに。
どうして忘れてしまうんだろう、そんな重要な部分を。
声をかけてきたのも、抱きしめたのも、手を握ったのも、全部全部、勝見君の「何となく」なんだよ。
そう自分に言い聞かせていると、胸のあたりがズキズキと痛んだ。
鼻のあたりがツンとして、視界がどんどんぼやけてくる。
髪がはらりと落ちて、図書室の入り口が見えなくなった。
それと同時に、目から涙がこぼれて顔を横断していく。
机が濡れて、頬と接している部分がぬるぬると気持ち悪かった。
机が濡れたときの独特なにおいがツンと鼻を刺激してくる。
それは例えば、雨の日、教室中のあらゆる机やいすや棚が湿気に満ちて放つ匂いと同じ。