きみに ひとめぼれ
始業のチャイムが鳴る前に先生が教室に入ると、それに合わせてみんな教科書を鞄にしまって教室に流れ込んでいく。
騒いでいた俺たちもだらだらと教室に入る。
俺の席は、窓際の後ろから二番目。
今日も暑い。
だけど教室の中は、そんな暑さを全く感じさせなかった。
窓は完全に締め切られていて、クーラーの冷たい風が教室を充満している。
天井から吊るされた扇風機が、時々こちらに首を向けて風を送ってくれる。
締め切られた窓から見えるグラウンドには誰もいなくて、茶色の地面が寂しそうだった。
問題用紙と解答用紙が前から回ってくると、次は後ろに回す。
後ろ手で回した用紙がすっと引き抜かれて、俺の手から離れていく。
紙が指先をこする感じがくすぐったかった。
始業のチャイムと同時に数学のテストが始まった。
問題用紙を表に返してざっと目を通す。
そして、俺は軽快にシャープペンを動かした。
数学の問題を解くのは好きだった。
シャープペンの芯からさらさらと生まれてくる奇妙な数式や記号。
そしてよくわからない答えが導き出される。
この魔法の呪文のような文字列を自分が書き落としているなんて、何だか不思議でおかしい。
だけど、この答えが一体どこで何の役に立つのか、俺にはさっぱりわからなかった。
問題数もそんなに多くないから20分くらいで解き終わった。
俺は再び外を見た。
グラウンドの砂利が、風に追い立てられるように舞っている。
いかにも生ぬるくて気持ち悪そうな風だと思った。
それに比べてこの教室内は快適だ。
この環境を称賛する俺に、もっと褒めてくれと言わんばかりに扇風機がこちらに風を送り込んできた。
気持ちがいい。
眠ってしまいそうだ。
外はあんなに暑そうなのに、感覚が矛盾して、脳がおかしくなってしまいそうだ。
ふわりふわりと髪の毛を揺らす風に、俺は思わず目を閉じた。