きみに ひとめぼれ
坂井さんは、見た目は普通の女子高生だ。
少しは化粧をしているみたいだし、スマホだってよくいじってる。
性格は、よくわからないけど、見た感じはおとなしそうで控えめ。
自分の席でいつも、同じ友達と談笑している。
だけど決して派手ではなく、目立たない女子だった。
スカートだって、他の女子たちがパンツすれすれのところでひらひらさせているのに、彼女のスカートはいつも膝上でおとなしく揺れている。
別にイケメンでもない俺が言うのも失礼なんだけど、特別可愛いわけでも美人なわけでもない。
男子からの人気はというと、正直名前すら上がってこない。
時々男子と話している姿も見るけど、色気を振りまいたり、媚売ったり、ベタベタボディータッチをして気を引こうなんてことはしない。
そもそも坂井さんが相手にしている男子とは、俺たちのような目立たない地味系男子だった。
そんな男子どもに、恋愛感情があるようにも見えなかった。
俺と坂井さんは「か」と「さ」で出席番号が前後なのもあって、何かにつけてグループやペアで作業することが多かった。
だけど、意識したことなんてこれまで一度もなかった。
同じ班で活動したことはあっても、話したことはあったかなかったか、どの授業の時にどんな関わりをしたか、記憶にないぐらいだ。
だから俺にとって、坂井さんはただの普通のクラスメイトだった。
「クラスにいる、女子のひとり」程度の存在だった。
それがあの日をきっかけに、坂井さんの姿を目で追うようになった。
目で追うだけならまだしも、坂井さんを探している自分すらいた。
__これは、一目惚れ、というヤツだろうか。
一目惚れなんて、初めてだ。
一目惚れから始まる恋なんて、ドラマや映画の中だけの話で、実際にはありえないと思っていたぐらいだ。
自分が一目惚れなんて、正直信じられない。
でもあの感覚は、完全に、俺の知っている「恋」の感覚だった。
胸の高鳴りも、高ぶる感情も、そして、目の前の女の子に触れたい衝動も。
ほんの一瞬でこの感覚に落ちるって、もうこれは、俺の中では一目惚れなんだ。
直感だ。
でも、こんなに近くにいたのに、どうして今まで何も感じなかったのだろう。
今もこうして、俺の席の向かいで、彼女はショウジョウバエと対峙しているのに。