きみに ひとめぼれ

テストは案の定撃沈で、裏を向いた私の解答用紙は、前へ前へと運ばれていく。

でも、もうそんなことはどうでもよくなっていて、私が今気になっているのは、勝見君の襟だった。

机から少し身を乗り出して、私はもう本当に無意識に、その背中に手を伸ばした。

とんとんと指先で背中をたたいた。

たったそれだけなのに、カッターシャツの上からほんの少し指先が触れただけなのに、その瞬間、彼のすべての体温が、匂いが、脈拍が、その指先から伝わってくるようだった。

一瞬で勝見君に包み込まれていくようで、ドキドキした。



__何だろう。



何かが起こる予感がした。

それくらい、胸がざわついた。


私に背中をつつかれて、一瞬体をびくりと震わせた勝見君は、驚いた顔を私に向けた。

すごく至近距離で目が合った。

男子とこんな距離になったのは、初めてだった。

見つめ合っていた時間がすごく長く感じた。

声が出なかった。

息をすることも忘れていた。

やっとのことで我に返って、伝えるべき言葉を出した。


「あ、あの、襟がおかしいよ」


そして、私は彼の首元に右手を伸ばした。

ゆっくりとカッターシャツの襟に手を滑らせて直していく。

親指が顎のラインをそっと触れるように走ると、皮膚の感触が伝わってきた。



__今私は、どんな顔をしてるんだろう。



勝見君の痛いほどの視線は感じてるんだけど、顔なんて見られなかった。

なんだか、とんでもないことをしているような気がして。


「はい、これでいいかな」


視線を上げられないまま、勝見君から離れた。



「ありがとう」



しばらくしてからぽつりと零れ落ちたその言葉に視線を上げると、勝見君は、目尻を下げて笑っていた。

口元からちらりと八重歯がのぞいていた。

その笑顔に、小さくトクトクと動いていた心臓が、胸を突き破って出てきそうだった。

太陽の光が透けているんじゃないかと思うほどのまぶしい笑顔に、体が震えた。


私の直感は、当たった。


「何かが起こる予感」、というヤツが。


だって、この瞬間、私は確かに落ちたんだから。



__勝見くん。



心の中で彼の名前を呼んだだけなのに、じわじわと熱い気持ちが広がっていく。

体中の血液が巡りだして、顔も体もほてっていく。

心臓はその早い血流に追いつこうと、ただただバクバク動いた。



__この気持ちは……



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