泣いて、凪いで、泣かないで。
夏綺は汐衣愛の母親みたいだ。

この構図は昔から変わらない。

水産加工の会社の社長令嬢であり、1人っこである汐衣愛は、常に甘やかされて育ったため、一般人とはかけ離れた感覚を持っている。

そこに銀行員一家に育ったしっかり者の夏綺が切り込む。

汐衣愛のお世話係りはいつも夏綺だった。

その関係はずっと続いていて変わらない。

けれど、俺と汐衣愛の関係は変わった。

俺が汐衣愛に気持ちを伝えて、汐衣愛が"いいよ"って言ってくれたあの日から変わった。

はず、だった。

でも、思えば俺は汐衣愛と一緒にいるだけで、汐衣愛に何もしてあげられていなかったし、汐衣愛とキスさえもしたことが無かった。

頑張って1度だけ手を繋いだ時があったけど、いつの間にか隣で話すだけで満足していて俺はその次に進もうとして来なかったんだ。

汐衣愛が側に居ればそれでいい。

そう思い込んでいただけだった。

本当に好きなら、その後のステップを望むはずで、それを望まないのはもしかしたら......

そういうことなのかもしれない。

俺は汐衣愛を......

そして、汐衣愛も俺を......。


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